—— 経営者とは、つまるところこういうものだ。顧客に価値を提供し、利益を得る。その利益を社員に分配し、最後の残りを自分のポケットに入れる。仕組みとしては至極シンプルだ。そして、会社という箱が洗練されれば、自分が手足を動かさなくても、ポケットは自然と膨らんでいく。うまくいけば、の話だけれど。

ただ、仮にそうなったとしても、それで全てがバラ色に回るわけじゃない。むしろ、そこからが本当の問題の始まりだと言ってもいい。顧客が無理難題を押しつけてくることもある。しかし本当にやっかいなのは社員のほうだ。
「仕事が忙しすぎる」「もっと待遇をよくしろ」「あいつのことが気に入らない」「もう辞めたい」——そういう声が繰り返し聞こえてくる。彼らにも彼らの事情がある。世の中のほとんどの問題は「感情」というやっかいなフィルターを通してやってくる。そして、人間というのは、自分の欲望を正当性に照らし合わせるのではなく、自分の欲望に都合よく正当性を作り上げる生き物だ。だから、彼らはさも当然の権利のように要求を突きつけてくる。

「君はよく働いている。それは僕も認める。でも、それに見合った給料はちゃんと払っているはずだ。それ以上は求めないでくれ。会社は君のものじゃないし、会社の金も君のものじゃない。僕の時間は僕のものだし、僕は君の親じゃない」——そう言いたいのだけれど、人間は正論を正論として受け入れるようにはできていない。正論が通るなら、そもそも僕の胃がこんなに重たくなることはない。

もちろん、経営者でいることのメリットがないわけじゃない。急いでいるときはタクシーに乗れるし、レストランではメニューの右側の数字を気にせず料理を選べる。でも、じゃあ、それが何だというのだろう。本音で話せる相手はほとんどいない。そんな日々をなんとかやりくりしているうちに、ふと思わぬ角度からストレスが襲ってくる。例えば家庭の不和。会社では誰にも感謝されずとも耐え続けることができる。でも、それは家族を守るためのはずだった。なのに、その家族から文句を言われる。

一体、僕は何のためにこんなことをやっているのだろう?

誰のために耐え、努力し、成果を上げようとしているのか?

がんばって、結果を出せば、誰かが感謝という名の、温かい言葉をくれるんじゃなかったのか?

僕がこうしてやってきたのは、決して僕のためだけじゃない、むしろ家族、社員、顧客、君らのためだ。そこに嘘はない。
君らのためにやってきたはずなのに、そのはずなのに——

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カウンセリングの第一歩は、来談者の心情がカウンセラーに理解されることから始まります。しかし、経営者というのは、一般的な社会人とは異なる、あるいは反対の立場と目線で生きているため、その悩みは理解されづらい側面があります。
当室の室長は、経営者を対象とした臨床を日々重ねているため、経営者の理解について円滑です。

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